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品品喫茶譚 第二十三回『東京 下北沢 トロワ・シャンブル』

by 世田谷ピンポンズ

 昼前に下北沢のライブ会場に着いて荷物を置くと、汗だくになりながら古書ビビビへ走った。弛緩したのか、割り切ったのか、慣れたのかはわからないけれど、街は人で溢れていた。こんな下北沢が大嫌いで好きだったことを思い出したりした。会場に戻り、控え室で出番を待った。

 この日のライブは「グッドバイ」という歌から始めてみた。さよならから始める。春になると、そういうきざなことがたまにやりたくなってしまう。久しぶりに東京で歌っている。外は曇天。楽しい四〇分だった。

 イベントは夜まで続く予定だったけれど一度会場を出て、三軒茶屋の宿に行くことにした。タクシーに乗る。

「お客さん、今日は日曜なんで、茶沢通りは代沢十字路から先はホコ天ですよ」運転手が言う。

 茶沢通り沿いのアパートに住んでいたときは当たり前だったことを忘れている。アパートの窓のへりに座って眺めていた三軒茶屋の歩行者天国。休日の街の喧騒を歌にしたこともあったのに。雨が降り出してきた。

 夕刻になって、また会場に戻った。数少ない知り合いと話し、他人のライブを観る。グダグダとウーロンハイを飲んで居座る。このまま打ち上げまでいてしまいそうになって、急に我に返った。今日の私のへらつき方はとても自分らしくない気がし、ふらっと会場を出ると、そのまま茶沢通りを歩いて三茶の宿に帰った。茶沢通りは私が東京で一番歩いた通りだった。ローソンを過ぎて、ひと気のないバーミヤン。どんどん歩いていく。私にとって代沢十字路に見えるサミットの灯りは三軒茶屋の入り口だった。住んでいたアパートに向かう途中のY字路には大きな木があって、いまも変わらずそこにあった。

 翌日は嘘みたいに暑い日だった。   

 昔、職場の人たちと通っていた居酒屋チェーン跡にできたファミレスで朝飯を食べ、また下北沢へ向かう。十三時から取材だった。古書ビビビで本を見、店主と話した。ドラマ、CoCo壱跡、なくなったものばかり思い出す。またこれかと思ったけれど、これがなくなったら自分には一体何が残るのだろう。

 トロワシャンブルに入り、アイスコーヒーを飲みながら、自分のことを話す。この店にはニレとカゼという二つのブレンドがあって、いつもどちらを飲んだのか分からなくなる。そのたびにどちらかを頼み、いつも満足して帰るから、それでいい。私はこの店のことを歌にしている。その歌では主人公の女性が喫茶店の窓から見る景色を描いたけれど、トロワシャンブルでは窓からの景色を見たことがないような気がする。歌にすることはすべてが写実である必要はなく、それは心象風景だったりするのだから、全然構わないのかもしれないけれど、歌を書いた後に店を訪れた私はなんだか恥ずかしくなったりしたものである。

 

 新幹線が東京駅を離れていく。東京で会いたかった人のこと、この街で活動する知人のことを考える。沸々と湧いてくる感情を持て余す。たった二時間ちょっとで私は私の街に着く。

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